●『完璧は無理だが、完璧を目指す心』高柳将太
警備には4種類の警備があって、
それぞれの仕事をするには、一つずつ研修を受けなければその警備をできない。
僕は雑踏警備(交通誘導)の研修しかしていなかった為、他の警備はできなかった。
それで新しく施設警備の仕事が入り、18時間の研修を受ける事になった。
実はその研修が問題なのである。
9時間の研修を2日かけて行うのだが、
想像して下さい。
目の前には森本レオ。
1対1での個人レッスン。
タウンページくらいの厚さの教本2冊。
それを目の前で森本レオみたいな人が一人で読み続ける。
質問もされない。
永遠とレオが読むのを聞くのみ。
こんな睡眠薬がどこにありますか?
言っておきますが、中学、高校時代の僕と
今の僕は違います。
もう僕は勉強好きな21歳です。
頭が良くなりたいと本気で思う21歳です。
高校の時みたいに、
一限目から四限目まで放課も起きずに寝てるような僕じゃあございません。
今の世の中バカは通用しないんです。
おバカブームもあの三人が人気なだけで、
ブームじゃございません。
結局は頭のいい島田紳助がいなければ意味がない事なのです。
警備の研修は勉強になるから、
本当にちゃんと授業を受けたいと思ってます。
でも、
森本レオは反則ですよ。
世界の車窓からを永遠と9時間見てるようなもんですから。
僕は始まって10分足らずで寝てしまいました。
起きては寝て、
起きては寝ての繰り返し。
うたた寝ってやつです。
寝ないと決めても寝てしまう環境なので、
もしもの事を考えてレオにバレないように帽子のツバで目を隠してました。
レオは僕を全く見ず、淡々とタウンページを読み続ける。
しばらくするとレオが、
「眠いかな?睡眠時間をあげようか?」
自分自身が情けなくて仕方がなかった。
「すいません!!もう絶対寝ませんから!本当にすいません!!」
「はい。ではそのまま続けま?す。」
良い人です。
僕を見てないフリをしておもいっきり見ていました。
そして感情をださずに、僕の気持ちを優先させて睡眠時間まで与えてくれたのです。
だから僕はもう絶対寝ないんだと心に誓った。
それでも寝そうになってしまうので、足をつねって寝ないようにした。
でもこの睡眠薬は強すぎた。
今度は5分で寝てしまった。
しかも深い眠りに…
僕の体に凄い勢いで教科書が飛んできた。
寝起きの僕は状況が全く分からなかった。
とりあえずレオに教科書を渡そうとしたらレオが、
「お前は何しに来たんだー!!さっきからずっと寝やがって!!
どんな人生送ってきやがったんだー!?」
完全に試合前のプロレスラーのテンションだった。
悪いのは俺。
それは分かっていたのだが、
レオの声と顔が変わりすぎててそこに目がいき、言ってる内容があまり受けとめられなかった。
その為僕は意外に冷静だった。
「すいません。もう寝ません。」
「今日はもう終わりだ!!帰れ!!お前なんかに金を払いたくない!!
お前には夢があるんだろ!!こんな所で寝てて叶えられるとでも思ってるのかー!!」
目が覚めてくると同時にだんだんムカついてきた。
「お前の教え方は明石家さんまだって寝るわ!!
俺に注意する前に、自分の教え方を誰かに注意されろー!!」
と高校時代だったら言っていた。
でも完全に俺が悪い。
「本当にすいません。もう寝ないのでもう一度チャンスを下さい。お願いします。」
今どき「チャンスを下さい」とか言わねーし、
起きてる事がチャンスって俺はどんだけ偉そうなんだー!とか思いながらダメもとで頭を下げた。
するとプロレスラーは笑顔で、
「そうかいそうかい。もう一度チャンスを上げよう。」
と、チャンスを与えてくれた。
チャンス。
それは起き続ける事。
レオからしたら俺に与えたチャンスなんてできて当然の事。
しかし俺にとってこのチャンスはとても過酷な事。
このチャンスを逃したら目の前にプロレスラーが現れ、
仕事を辞めさせられる事もあるかもしれない。
死んでも寝られない。
するとレオが、
「目を覚ます為にビデオを見ましょう。」
と言った。
もちろん警備のビデオです。
もしこのビデオが「世界の車窓から」だったら俺は死んでいた。
しかし警備のビデオもなかなかの睡眠薬。
役者は演技ひどいし、
役者は眉毛太いし、
あきらかに作りが古い。
なんでも貸します近藤産興のCMより作りが古い。
こりゃまた寝ちまうぞ…。
足をつねっても寝てしまうので顔をつねる。
顔をつねるとレオに眠いのがバレる為、帽子を外し顔を隠してつねる。
バレてないか確認する為レオを見る。
すると、
レオ爆睡。
いびきまでかいてやがる。
「てめー俺が寝てたらキレるくせに何寝てんだよ!」
と高校の時なら言っていた。
でも言えなかった。
仕事だからである。
僕とレオの立場は全く違う。
レオの立場は警備会社に必ず一人はいなければなならない存在で、
レオがいなかったら警備会社事態運営ができないのである。
部下は黙ってる手段しかないのだ。
でも俺の中ではレオの価値は下がる。
どれだけ怒られても聞くフリはするが、心には入ってこない。
それからはレオと心から楽しくはしゃべれなかった。
好きになれなかった。
納得がいかないからだ。
二日目。
僕は寝まくって準備万端にしていた。
レオとの授業が始まる。
僕とレオの戦いが始まる。
開始5分。
再び睡魔がやってきた。完璧に体調を整えたが、それでもレオは強敵だった。
ロマンティックよりも、あくびが止まらない。
そこをレオは見逃さなかった!!
「高柳君。甘いものは脳を働かせる効果があるのを知ってるかな?」
「はい?」
「これ噛んでれば眠気も飛ぶよ。」
と言い、僕にキャラメルを渡してきた。
わざわざ僕のためにキャラメルを買ってくれていたのだ。
ゆっくり封を破りキャラメルを口にした。
キャラメルが美味しかった。
とても甘く、優しく、暖かい味。
噛めば噛む程味が出てきて、
その味はレオの人間性そのものだった。
よく見たらレオの顔は凄く優しくて、
教科書を読む時の顔が一生懸命で、
何度も僕の顔を見てくれていた。
一日目は質問をしてこなかったのに、
二日目はいっぱい質問をしてくれて、僕を寝させないように頑張ってくれていた。
自分の小ささがめちゃくちゃ恥ずかしがった。
今考えてみたら、僕はどっかでレオを見下していたのかもしれない。
もし、研修を教えてくれる人が総理大臣だったら、
もし、研修を教えてくれる人に墨が入っていたら…。
僕は間違いなく寝ていなかった。絶対に。
見た目で判断して、自分で決め込んでた所がどっかにあった。
相手が誰だろうと自分がやる事は変わらない。
レオのしゃべり方が眠気をさそう?
質問をしない?
タウンページ2冊?
なに人のせいにしてんだよ!
自分で仕事決めて、自分でやって、
会社に勉強させていただいてる。
一生懸命やる事があたりまえの話。
いいですか?
一生懸命があたりまえです。ふつーです。
学校でもそう。
自分で大学決めて、
親にいかせていただいてる。
一生懸命がふつーです。
仕事がつまらん
学校がつまらんは会社のせい。
仕事ができる
勉強ができるは自分が頑張った結果。
笑わすなっつーの!!
仕事がつまらん
学校がつまらんは自分のせい。
仕事ができる
勉強ができるは周りのおかげ。
それがあたりまえでしょ?
よく言いますが、
「人は一人じゃ生きていけない。」
本当のこの言葉の意味って分かるかな?
この意味がわかりにくいなら、
「人が生きれるのは周りのおかげ。」
こう考えた方がわかりやすい。
みなさんはどうですか?
今までの人生で、
自分だけで考えて、
自分だけで行動して、
自分だけで結果を出した事がありますか?
絶対無いと思います。
必ずどこかで人の力を借りてます。必ず。
まずは、
さりげなく自分の為に何かをしてくれる人の優しさを見つける事が一番ですね。
そこから始めてみましょう。
特に俺みたいな調子に乗るタイプの人間は。